私はテレビをほとんど観ない。車で移動中のカーナビで、時折目にする程度だ。

ニュースの取得は、新聞のデジタル版とネットのポータルサイトが中心だが、ラジオからも入ってくることがある。

エンターテインメントとしての映像は、2つの動画配信サービスを利用している。

アマゾンプライムビデオと、アジアンドキュメンタリーズだ。

今日は後者の配信作品で、とてもユニークなものがあったので、自分なりのレビューを書いておく。

作品タイトルは『ビューイング・ブース-映像の虚実-』。12月の特集『暴走する映像』のリストに入っている3作品のうちの1作だ。

他の2作に比べると地味な作品なのだが、実に興味深い。以下にその理由を書き綴っていく。

監督は、米国人の学生にイスラエルの人権団体やイスラエル軍が投稿している動画を見せて、彼らに感想を求めていた。主人公のマヤは、いくつもの動画を見るうちに、さまざまな矛盾点に気づいていく。

投稿する側が伝えたいイデオロギーが、映像の各所に顕れているのだ。人権団体側の映像は、イスラエル軍の非道さを訴える。イスラエル軍の映像には、暴力的なパレスチナ人の行動が収められている。それぞれのメディアには、自分たちの正義があり、その正義を正当化するための映像をリリースしているのだ。

これはイスラエルに限ったことではなく、世界中のメディアで行われていることなのだと思う。ものごとの客観的事実だけをニュートラルに報道するメディアは存在しないのではないかと思っている。報道各社には思想やスタンスがあり、その目的に沿った記事を配信。あるいは目的に反する記事は配信しないという「編集」が日常的に行われているだろう。特に政治ニュースで、一つの事象に対して反対意見も示す、いわゆる両論併記が見られなくなって久しい。特定思想の喧伝機関に成り下がっているメディアは少なくないと思う。

飛び込んでくるニュースを鵜呑みにするのではなく、別の視点からも見る力を持たなければ、情報に踊らされてしまう。報道の落とし穴には注意が必要だ。

そしてこの作品は、受け手の我々も、自らにかけたバイアスという罠にかかっていることを暗示している。「見たくないものは見えない」ということだ。自分が信じるものの不正や犯罪に直面した時、素直にそれを事実とは認められない心理が働く。監督はマヤに、その現実を突きつけた。その瞬間、私は自分が問われているようにも感じた。

近年はメディアの偏向が槍玉に挙げられることが多い。それはある部分では事実だと思うけれど、受け止める我々の中に潜むバイアスにも注意を払いたい。公正な報道はもはや存在しないとしても、情報の受け手がニュートラルな視点を持つことの意味は大きいと思っている。

 

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By ほりゆき

ぶるぼん企画室代表の堀行丈治(ほりゆきたけはる)です。取材、執筆、撮影、編集を生業としています。