先日、久しぶりに「ますゐ」に行った。
この店で最も有名な「サービストンカツ」が9月に値上げされ、新聞記事になった。
サービストンカツは文字通りのサービス価格で提供されていて
値上げ後でさえ430円だそうだ。
私が最後にサービストンカツを食べたのは、今から20年くらい前。
その頃は350円だったと思う。
以後は現在に至るまで、サービストンカツは食べていない。
それには理由がある。
20年前、私は印刷会社の営業社員で、広島市内の得意先をあちこち回っていた。
八丁堀界隈で昼時を迎えると、よくますゐに行っていた。
その頃はよくサービストンカツを食べていて、その日もサービストンカツだったと思う。
「相席でお願いしまーす」
と店員さんに案内されて私の前に座ったのは、同じ会社の部長だった。
異業種から印刷業会に転職して、未知の世界で四苦八苦していた。
部長は直属ではなかったが、厳しい人で、隙を見せるとすぐに突っ込まれて叱られた。
その反面、面倒見の良い人でもあったので、直系ではない部下の私にも、
いろいろと話しかけてくれて、アドバイスをくれることもあった。
対面で食事をしながら、部長が言う。
「学生の頃や若い頃はね、お金がなくてここのサービストンカツをよく食べた。
今はその頃のお返しで、必ず上トン(上トンカツ)を注文することにしとるんよ」
サービストンカツではなく、上トン大ライ(上トンカツ、大ライス)を注文することで、
ますゐに恩返しをしているのだと。
部長は出された上トン大ライを手早く平らげ、私の分も払って店を後にした。
サービストンカツは、お金のない人のためにお店がサービスで提供しているメニューだ。
それなりにお金を稼いでいる自分たちは、サービスが続けられるように支えていく立場ではないか。
部長と相席になったことで、気づくことができた。
その日以来私は、サービストンカツをやめて。上トン大ライを注文している。
東広島に住んでから、ますゐにいく回数は減ってしまったけど、
行くたびに部長のことを思い出す。
いつかまた、ますゐでばったり相席しないかなと思っている。
その時は、部長の分も私が払いたい。