文章の先生に葉書を書いた。
昨日、津和野でお世話になったことのお礼だ。
津和野町日原の割烹「美加登家(みかどや)」で鮎づくし料理を食べる会の段取りをお任せした。
生徒の何人かは行ったことがあるそうだが、私は初めての経験だった。
元は旅館だったという古い建物だが、設えの随所に歴史を感じる。
細工の細かな欄間、柔らかな光を取り込む丸窓に一輪挿しの花。
外壁の漆喰には、鏝絵で鯉の滝登りがあしらってある。
高津川の水音も聞こえてきそうな静かな街並みに似合っていた。
先付け、刺身、汁物、焼き物、蒸し物、揚げ物、酢の物、ご飯……全ての料理で鮎が主役だ。
同じ高津川の鮎なのに、一つ一つの味わいが違っておもしろい。
料理人の腕で、一つの食材がこんなにも表情豊かな献立になるものなのかと驚いた。
そして丁寧で繊細な調理に、思わず唸ってしまった。
この鮎づくし料理を紹介するエッセイを読んだことがある。
筆者の興奮が伝わってくるほど力が入った文章だったが、自分の口で味わってみるとまた違った感動がある。
見聞きすることと、自分が体験することの差は大きい。
決して安くない値段のコース料理だが、その真髄に触れると値段以上の価値を感じる。
もし体験しないままであれば、「高いな」という思いしか持たなかっただろう。
家から遠いので実現は難しいが、両親を連れて行きたいと思うほど、満たされた時間だった。
ものの価値は、体験した人にしかわからないものだと、今さらながら思った。
広島のライター&カメラマン
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