「雑記」を辞書で引いてみる。

この雑記帳は本当に雑記帳で、その時思いついたことを書いているのだが、
たまに「これも書きたかった」という題材が出てくる。

それを翌日の雑記帳にしたためようと思っていても、一夜明けると旬を過ぎた気がしてしまう。

季節感があるような題材ではなく、もっと後日のテーマにしてもいいようなものでも、その“後日”は滅多に訪れない。

次の日には次の日の“書くべきこと”(“べき”というような命題のような観念もないのだが)があり、
「何を書こうか」と迷っていても、ストックしておいた材料は、なぜか使う気にならない。

 

明日は明日の風が吹く、という言葉がある。

今日起きた悪いことは忘れよう。くよくよするな。
という意味だと記憶していいる。

しかし、見方を変えれば

今日の風が明日も吹くとは限らない。

とも読める。

今日この時に「書きたい」と思ったことが、明日も書きたいとは限らない。

自分の中の“風”も、明日の風向きは読めない。

若い頃、商品先物取引の営業社員という、胸を張って人に言えないような仕事をしていた。

会社には、そこでしか見ることがないような業界誌がいくつもあった。

やっていることは世の中の役に立っているとは思えないことばかりだったが、業界誌には含蓄のある格言が多かった。

人のゆく裏に道あり花の山
(大勢の人が行きたがる道の反対側にこそ宝の山がある)

知ったらしまい
(騰落を左右するような材料や指標は、知った時がピークでそこから反転する)

もうはまだなり、まだはもうなり
(もう下がらないと思ったものはまだ下がる、まだ上がると思ったものはもう上がらない)

格言の他にも、胡散臭い業界人が寄稿しているのだが、その中でもたまに印象に残る言葉がある。

ある勉強会で相場師が市場予測を「上がる」と見込んで解説していたところ、話の途中で相場観が変わり「下がる」という結論になった。
聴講者が「途中で予測を変えるなんておかしい」と苦情を言ったところ、その相場師は
「相場は生き物だ。今この瞬間にも変化している」と答えたというのだ。

 

私はこのエピソードがずっと心に残っている。

言葉も生き物だし、心も昨日から今日でアップデートされる。

毎日違う風が吹いている。

今日書きたいことは、今日しか書けないのだ。

 

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By ほりゆき

ぶるぼん企画室代表の堀行丈治(ほりゆきたけはる)です。取材、執筆、撮影、編集を生業としています。