三島由紀夫という人物の、懐の深さが際立った作品だった。
そして、彼と同じ時代を生きた者たちが、今もその時代の空気から抜け出せないでいるように見えた。
稀代の天才小説家と過ごした時間に飲まれたままの彼らのことを、ある意味不憫にも思い、羨ましくも思う。
作品から感じられたのは、昭和40年代の社会の激動だった。
リアルタイムで体感することは無理だとしても、その時何が起きていたのかは後追いで知ることができる。
だが、あさま山荘事件の様子をテレビで見ることがあるが、テレビは犯人の思想的な背景には触れない。
よど号ハイジャック事件、ダッカ日航機ハイジャック事件、テルアビブ空港乱射事件、安田講堂事件……
映像で紹介されることはあっても、事件の背景を解説する番組はほとんどない。
昭和30年代の安保闘争からの、日本における共産主義勢力の台頭、反戦主義の広がりなど、
その結末も含めて、学校で私たちが教わることはない。
戦後日本の歴史の中で、少なくない期間を生きている私たちが、現代の少し前に起きたことを知らない。
終戦からの歩みを碌に学ばないまま、今の社会だけを批判している。
果たして我々は、いかにして今の日本社会に辿り着いたのか。
それを知らないまま右だの左だの言い合っている。
資料はたくさんあるだろうが、知ろうとしない限り私たちの目の前には出てこない。
知らなくても困らないかのもしれないが、平和や安全が脅かされている今、過去を知ることも必要だと思っている。
広島のライター&カメラマン
ぶるぼん企画室
代表 堀行丈治
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