広島のウェブマガジンFLAG!で1年間続いた連載企画「映像で知るアジアの現実」が最終回を迎えた。
毎月、広島ゆかりの人物に、アジアのドキュメンタリー映画を視聴した感想を語ってもらうインタビュー記事だ。
映画監督や書店員、平和活動家などさまざまなジャンルの人に作品を観てもらった。
12人のいずれも興味深いレビューをしてくれたのだが、特に印象に残っている3人を紹介したい。
●書店員の江藤宏樹さん×ブラッド・ブラザー
広島蔦屋書店の文学コンシェルジュ、江藤宏樹さんがアジアンドキュメンタリーズにはまるきっかけになった作品。旅行中にインドのエイズ孤児院を訪ねたことがきっかけで、そこで暮らすことになった米国人の若者のストーリーだ。この映像を撮っているのは主人公の親友。友の視点から、インドが抱える貧困問題やエイズ孤児院の壮絶さを捉えている。インタビューで江藤さんが語っている通り、観終わった後に温かく爽やかな気持ちになる。
●数学者の秋山夕日さん×世界で一番ゴッホを描いた男
数学者で元塾講師の秋山夕日さんが視聴した作品は、ゴッホの贋作を描き続ける中国人の絵描きの話。たくさんの弟子を抱え、贋作ビジネスで生計を立てている男が、本物のゴッホを見るためにアムステルダムを訪ねる。偽物ばかり描いている絵描きの中に、ゴッホの精神が宿るのだろうかという疑問に、秋山さんが哲学者バタイユの言葉を引用して説明してくれた。作品を観たことがある人も、この記事を読んでもう一度観てほしい。
ここまでの2人は、インタビューをお願いしたときに、本人から作品の指定があった。
自ら指定するだけあって考察が深かった。
もう1人は、インタビューが決まった後、配信中の全ての作品紹介をチェックして視聴作品を決めてくれた。
全作品の予告編を見るだけでも相当な時間を要したと思う。その話を聞いた時、本当にありがたかった。
●小説家・編集者の清水浩司さん×いつか故郷へ-カレン族の闘争-
故郷を追われたミャンマーの少数民族が、タイで暮らしながらいつかその地に戻る日を夢見ている。若者たちがヒップホップグループを結成し、自分達の置かれた苦しい状況や自信のアイデンティティを訴える。一方で現実には抗えず、恋愛、結婚、就職と、ヒップホップとは対極にあるような「普通の」生活に染まってく。清水さんがそれを「木綿のハンカチーフ」に喩えたのが秀逸だった。
もともと12回の予定だったが、この連載が終わるのが残念で仕方ない。
ひつつの作品について違う人の見方を知ることは、自分にとって新しい視点を得られ、気づかなかった自己バイアスに気づかせてもらえる。
インタビューの楽しさを実感させてもらえた企画だった。
全12回はこちらから