ソニーのラジオICF-5450

 

父の四十九日を前に、墓の掃除をした。

父の部屋にあった、使われなくなったラジオをもらって帰った。

私が子供の頃は、父がいつもこれで野球中継を聴いていた。

今と違ってカープのホームゲームでもテレビ中継がないことが多く、

野球少年だった私にとっても貴重な情報源だった。

父が仕事で不在のときは、ラジオを自分の部屋に持ち込んで聴いていた。

だが悲しいかな、大和町という山奥に住んでいるせいか電波が弱く

中継の音声がはっきり聞こえないこともあった。

オールナイトニッポンが聴いてみたい年頃だったが、満足に聴き取れないことが多かった。

そのくせ韓国語と思しき言葉の放送は、ノイズの少ない音声で何局も受信できる。

それから40年が過ぎたが、父の部屋にはあの頃と同じラジオがあった。

晩年はイヤホン式のラジオが主役になり、件のラジオは埃にまみれていたが、

壊れることも捨てられることもなく部屋の隅にあった。

ACアダプターをつなぐと、音が出た。

ラジコに慣れた耳には、ノイズだらけの音声は懐かしいが聴きづらい。

40年経っても、大和町の電波状況は良くないのだと知った。

八本松の事務所でラジオのスイッチを入れてみた。

いきなり聞こえてきたのは、韓国語のようなことば。

周波数のツマミを回して電波を探索するが、ほとんどがノイズで

たまに韓国語の別の番組が聞こえてくるだけ。

なんてことだ。八本松も大和と変わらないでないか。

いや、もっと酷いかもしれない。

ラジオを窓際に置いてまたツマミを回転させると、

ようやく日本語が聞こえてきた。

ひたすら今日の株価終値を伝えている。

さらに何度もツマミを回しては戻し、回しては戻し

ノイズに隠れたかすかな声を探した。

ようやく探し当てたNHK第1の電波は、松山放送局のものだった。

ローカル番組以外は同じだから、これでもいい。

安心したのも束の間、夜になると松山の電波は弱くなって、ラジオはまた雑音の箱になった。

今日何度目の探索になるのか、またツマミを回してゆく。

気持ちの上では0.1ミリずつくらいの細かな動きで回し、電波を探り当てる。

またNHK第1を発見。

しかしこれも、午後10時を過ぎると音声は雑音にかき消された。

場所が悪いのか合わせ方が悪いのか……。

ラジオの場所や向きを変えてみたが、なかなか改善しない。

今日はもうラジコで聴こう。

続きはまた明日。

 

 

 

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By ほりゆき

ぶるぼん企画室代表の堀行丈治(ほりゆきたけはる)です。取材、執筆、撮影、編集を生業としています。