文芸、といえば大げさな気がするが、小説を書いている。地元新聞社が主催する文学賞には毎年応募し、ときには他県や在京出版社の文学賞にも作品を送りつけている。

書くだけではセンスも筆力も上がらないので、「文章講座」「文学学校」といった教室にも足を運ぶこと数年。学びの結果は、いまだ形として現れてこない。

学び始める前よりも成長しているのだろうか、上達しているのだろうかと、自分に疑問を投げかけると、今夏の文学学校での出来事を思い出した。

講座を終えての質疑時間に、受講生の一人が講師に尋ねた。

「先生は本の中で“自分の全てを出し切って書きなさい”とおっしゃいました。その言葉通りに、私は全てを出し切って書いたのですが、次に何を書いたらいいか分からない。書くことがなくなってしまったんです」

私もたびたび実感している。作品を一本書き終え、次に何かを書こうとしても、題材探しに骨を折ることが多い。原稿用紙3枚分の随筆でさえ、何を書こうかと一か月以上思案することがある。

2000文字、3000文字の取材記事ならすぐに書けるが、自分の中から絞り出す「作品」は、そうはいかない。物書きなら大半の人が経験する(と思っている)この問題に、先生はどう答えるのだろうか。

「それは、あなたが成長したということですよ」

成長。書くことがなくなったとき、成長する。次の題材をどこに見つけ出すか、自分の感性を磨いていくことが「成長」なのではないかと、私は解釈した。

以前、作家の島田雅彦さんが講演で「小説を書くためにすべきこと」として

「あてもなくふらふらとほっつき歩くこと」

と言った。

目的もなく、とにかく歩く。歩き回る中で自分の感性のアンテナに引っかかる事象を観察する。その繰り返しが次なる題材を生むのだと、私は解釈した。

あてもなくほっつき歩くのは難しいし、勇気がいる。常に「これからすべきこと」に追われているからだ。一見、無駄に思える行動の中に価値があるのだろうが、常に効率を求める世の中で、あえてその「無駄」を選択できるだろうか。

成長の一歩先へ、早く進みたい。

この数か月、書くべき題材が見つからない。

あてもなく、歩いてみよう。ふらふらと。

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By ほりゆき

ぶるぼん企画室代表の堀行丈治(ほりゆきたけはる)です。取材、執筆、撮影、編集を生業としています。

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