スーパーで買い物をしているといつも気になる食品がある。「わかめ煮」だ。2年くらい前まではまったく眼中に入らなかった商品が、今はよく目に留まる。

理由がある。実家で食事をとるときに、よく食卓に上がっているのだ。ご飯に合うから、つい箸が進む。

今日は、思わずかごに入れてしまった。帰ってさっそく食べる。うん、期待通りのおいしさだ。

子供の頃好きではなかった食べ物が、大人になったら好物になることはままある。

私のそれは、椎茸だった。匂いも食感もすごく苦手だったが、飲酒が習慣化した頃には好物になり、酒を飲まなくなった今も、好んで食べている。

この数年でまた、食わず嫌いから好物に転じた食べ物がある。

古漬けの煮物。幼少期から時々見かける保存食だった。母の好物だが、父や祖父母は好んではいなかった。百姓の家で生まれ育った母が、幼い頃から慣れ親しんだおかずだった。食べているのはいつも母。自分一人が食べるおかずなんて、少し肩身が狭かったかもしれない。

古漬けの名の通り、熟成しすぎた白菜が鍋の中で温められ、醤油と混じり合って独特の匂いを放つ。それだけで体が受け付けなかった。成人しても、不惑を過ぎても、食欲をそそられることはなかった。

ところが人生が半世紀を過ぎた頃から、妙に古漬けの煮物が気になるのだ。匂いも気にならないどころが、どことなく芳しくさえ感じられる。これはもう「匂い」ではなく「香り」だ。

鉢の中の古漬けを箸でごっそり持ち上げ、白いご飯の上に乗せてかき込んだ。期待通りの味だ。

母が、仲間ができたような、うれしそうな顔をする。おいしさを共有できるのは、幸せだ。

歳をとるごとに、母に、ときどき父に似てくる。

親子とは、こういうものなのだと、しみじみ思う。

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By ほりゆき

ぶるぼん企画室代表の堀行丈治(ほりゆきたけはる)です。取材、執筆、撮影、編集を生業としています。

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