水田に映り込んだ宵の空

 

夕方、仕事を早めに終えて実家に帰った。

父の体調はすぐれずほとんど寝たきりの生活になっている。

会話もおぼつかない状態で、母の話し相手もできない。

 

連休の最後2日半、私は誰かと話す機会がなく、一言も声を発しなかった。

その事実に気がつき、声を出そうとしたがうまく発声できない。

喉の奥で曇っているような薄い声だった。

話すことはけっこうエネルギーを使う。

長時間しゃべると、心地よい疲労を感じる。

だが長い間しゃべらないと、体の中ににもやもやしたものがたまっている感じがする。

話し相手がいない母も、しんどい思いをしているのではないか。

心配が先に立って、帰ってきた。

特別に話す時間を作るわけではないけれど、

夕飯のときに言葉を交わすだけでも気持ちがほぐれる。

母を心配しているつもりだったが、自分の方が救われている気がする。

相談事があるわけじゃない。

長話をするわけでもない。

少しの会話でも、この場所に居ることで心が落ち着く。

父と母がいてくれるだけで幸せを感じる。

 

今夜は自分の部屋に戻らずに、食卓でこの雑記帳を書いている。

 

 

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By ほりゆき

ぶるぼん企画室代表の堀行丈治(ほりゆきたけはる)です。取材、執筆、撮影、編集を生業としています。

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