車に父と母を乗せて出掛けた。
子供の頃、3人で外出したことはあると思うが、私の記憶には残っていない。
行き先は病院なのに、初めての体験のように思えて、暗い気持ちにはならなかった。
病院は、診察時間より待ち時間の方が長い。
朝一番に受け付けしたのに、終わったのは1時前だ。
待っている間に、昼食の計画を立てた。
今まで3人が揃って外出することもなければ、外食することもない。
二人を、特に父を喜ばせてあげようと思えば、店はすぐに決まった。
丸亀製麺しかない。
両親が住む大和町は過疎の町。
飲食店は数えるほどしかない。
セルフのうどん屋など、存在しないのだ。
去年、父が丸亀製麺のテレビCMを見て、「食べてみたい」と言ったことがある。
持ち帰りうどんセットだったと思う。
「こんどこれを買ってきてほしい」と。
後日、丸亀製麺の持ち帰りセットを買って実家を訪ねた。
そこそこの味だったが、店で茹でたてを食べる方がおいしい。
それでも父は喜んでくれた。
その時から、「いつか店で食べさせてあげたい」と思っていた。
とはいえ、実家の生活様式では外食する機会がない。
さらに、市街地に父と出掛けることなんてもっとレアケースだ。
このチャンスを逃したら、父はいつ丸亀製麺に行けるか分からない。
「丸亀製麺でうどんを食べて帰ろう」と提案すると、二人とも快諾してくれた。
注文口でうどんを受け取り、揚げ物を選ぶ。
母は注文の仕方に戸惑いながらも、声が弾んでいた。
父は食が細くなって、少ししか食べられないと言っていたが、「うまい」を連発。
かき揚げ天ぷらのほとんどと、うどんを半分食べた。
帰りの車の中でも「やっぱりうまいのう」と何度も母に語りかけた父。
母は好奇心旺盛なので、セルフ形式の格安うどんというだけでも喜んでいたようだ。
もちろん母も「おいしかった」と、味にも満足。
行きよりも話が弾む帰路だった。
一杯のうどんで、幸せな気持ちになれる。
両親と一緒に外食するのは、こんなにも楽しいことなのか。
二人が元気なうちに、もっといろんな店に行ってみたいと思った。
広島のライター&カメラマン
ぶるぼん企画室
代表 堀行丈治
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[…] 父が生きていた頃に丸亀製麺に行ったときの記憶が蘇ってきた。 […]