何歳になってもプリンに憧れる

 

生まれ育った場所は山間の集落で、レストランも喫茶店もない。

役場や町内の作業場などで働く人向けに、酒を提供する飲食店とスナックが数軒あった。

子供は外食する機会がない。大人も滅多にない。

年に数回、町外に買い物に出かけるときに、連れて行ってもらえることがある。

大抵の場合は目的の買い物を済ませたらすぐに帰るのだが、まれに飲食店で昼食をとった。

覚えているのは、祖父母と父と出かけたジャスコの食堂で中華丼を食べ残してしまったこと。

父と行ったラーメン店が、パチンコの景品交換所も兼業していたこと。

母の買い物のお供で食べたラーメンが忘れられないくらいおいしかったこと。

この3つくらいだ。

外食機会が少ないので、ショーウィンドーで目を引くデザートにもほとんど縁がなかった。

テレビで見るようなパフェは実際に見たことがない。

かき氷は祭りの屋台。

プリンはプラ容器に入ったものしか見たことがなかった。

 

大学生になって都会に出て、アルバイトをするようになって、

食べたいものを遠慮なく食べられるようになった。

肉でもラーメンでもパフェでも、好きなものを注文できる。

不思議なもので、いつでも食べられると思うと、そうそう食べない。

大人になってからの人生の方が長いが、その間に何度パフェやプリンを食べただろうか。

いや、そこそこは食べているのだが、感動が小さいので覚えていないのだ。

 

今日は呉市で仕事を終えて、帰り道の途中にある喫茶店に入った。

店内のショーウィンドーに、サンプルのデザートたちが煌めいている。

迷った末にプリンフルーツを注文した。

色鮮やかな果物とホイップクリームが盛り付けられ、中央に大きなプリンが鎮座。

子供の頃に憧れたデザートが、私の前に運ばれてきた。

見ているだけでも幸せな気持ちになる。

一匙ずつ、噛み締めながら味わって食べた。

心だけ、8歳ぐらいの子供のようにときめいていた。

 

 

広島のライター&カメラマン
ぶるぼん企画室
代表 堀行丈治
東広島市八本松南5-6-12コウセイビル202
TEL.082-401-1072 FAX.082-553-0556

 

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By ほりゆき

ぶるぼん企画室代表の堀行丈治(ほりゆきたけはる)です。取材、執筆、撮影、編集を生業としています。