2年前に発売された本『「正しさ」の商人』(林智裕)を読んだ。
主に東電原発事故にまつわる福島の風評被害について、具体的な事例を挙げながら
デマゴーグや流言蜚語がなぜ消えないのか、なぜ爆発的に広がっていくのかという背景を
分かりやすく解説してある。
日常でさまざまなニュースに触れる私たちは、その情報を自ら裏取りすることは滅多にない。
発信源がマスメディアであれば概ね信頼し、SNSであれば少々疑ってかかる(疑わない人もいる)程度だ。
しかし信頼度が高いと思っているマスメディアの情報でさえ、正しくないことがある。
それも単純な事実誤認ではなく、意図的に読者を誤解させるような記述も散見される。
読み進めながら、重要なところに付箋を貼っていたが、
ほとんどのページに付箋を貼る勢いになったのでやめた。
覚えておきたい一部分を、転記しておく。
マスメディアが「加害」に加担する構図
嘘はついていないが本当のことを伝えようとしない印象操作。ほのめかし報道。以下は典型的な手段
・紛らわしいタイトルをつけて誤読や誤解を多発させる
福島36%「子どもに被ばく影響」−県民健康調査(共同通信見出し)
記事の内容は“住民の36%が「子どもに被ばくの影響があるかもしれない」と心配している”というものだが、見出しだけ読むと36%の子どもに被ばくの影響が出ているように読み取れる
・数値の意味や相場観を伝えないまま「過去と比較して○倍」などと見せることで危険性を強調し不安を煽る
小児甲状腺がんの多発
現実は「過剰診断」により、治療の必要がない無症状(一生発症しない)の甲状腺がんを多発見したことによるもの
・全く別の意味を持った数値や単位を混同させてリスク判断を誤らせる
福島の11歳少女、100ミリシーベルト被曝(東京新聞)
「等価線量」と「実効線量」の混同。がん発症増加の目安は実効線量で100ミリシーベルトだが、記事の少女が測った甲状腺被曝量は等価線量で100ミリシーベルト。実効線量に換算すると0.04ミリシーベルト
・全体から見れば特殊な意見を持つ住民をあたかも代表的当事者であるかのように繰り返し使う
福島に限らず、風評被害を被った側が「正しい情報を発信していく」と繰り返すばかりで、
その風評の源になった情報や発言に対して抗議や否定を行わないことが多い。
抗議することで活動家の言動が激化することを恐れてのことなのだという。
風評が野放しにされる原因になっている。
かく言う私も、HPVワクチンが危険だと言うデマ情報をシェアしたことがある。
HPVワクチンの接種が遅れ、その間に少なくない命が奪われていることを思うと、
情報シェアにはもっと慎重にならなければいけないと思った。
風評被害はニュースになっても、加害者の責任が問われることがない。
被害者は泣き寝入りするしかないのが現状だ。
せめて政治や行政は、風評発信者に対して明確な抗議をしなければならないと思う。
マスコミは「表現の自由に権力が介入」なんて言うんだろけど。