小泉八雲没後120年を記念して、松江市文化協会が新作怪談を募集している。
これまで怪談は書いたことがないが、親愛なる高橋一清先生肝入りの事業であること、
入賞者は高級万年筆がもらえることもあって、応募しようと決めた。
しかし怪談とはどんな話なのか、お岩さんとか飴買いの女ぐらいしか記憶にない。
ただ怖ければいいというものでもなさそうだが、そもそも怖い話なんて書ける気がしない。
かれこれ2か月くらい思案してやっと辿り着いたのが、10代の頃に友達を噂していた都市伝説のような怪談。
当時も結構怖くて、夜その場所を通る時は少し緊張したことを覚えている。
これなら形にできると思ったものの、現実は甘くない。
登場人物を設定して話を膨らませてみたが、作品としての辻褄を上手く合わせられない。
そりゃそうだ。ただの怖い話を、小説にしなければならないのだから。
怖さの裏に何があるのか、読み手に何を感じさせるか、創作力が問われる。
時間ばかり浪費し締め切りが近くなってきた今日、現地に行ってみようと思った。
現地を見れば、ひらめきが生まれはしないだろうかと。
車を走らせていると、私の左側でいきなり何かが破裂したような音がした。
助手席の荷物はバッグと財布だけ。壊れるものは何もない。
前方をよく見ると、フロントガラスの左に10センチほどのひび割れができていた。
前方を走る車はなく、対向車も見えない道で、小石が飛んできたのだろうか……。
これはもしかして、現地に近づこうとしている私への警告なのだろうか。
このまま奇怪な出来事の波に飲まれるのではないだろうか、岸辺露伴みたいに!
などと妄想しながらその場所に着いた。
そして、何も起こらなかった。
拍子抜けするほどに開放的な空間になっていたので、地形がよく分かった。
きっと作品に生かせるだろう。
フロントガラスの事件も一時は本当にビビったので、上手く使いたい。