水引草

 

去年あたりから衰えが見えていた父が、体調不良で入院した。

コロナ感染防止のために、家族であっても病室には入れない。

面会を希望する者は事前に予約をして、駐車場の車中で病院が用意するタブレットを通して対面するという。

入院患者がスマホ使いに慣れていれば、通話なりテレビ電話なりでコミュニケーションをとる方が便利だ。

しかし父は、スマホを持たされてはいたが使ったことがない。

急に決まった入院だったので、使い方を練習する時間もなかった。

どうにか母に電話をかけることはできたので、入院生活に必要なものがあると連絡してくる。

こちらから電話をかけても出ないそうだ。

私が小さい頃から、父は良く言えばマイペース。

言い換えると自分勝手な人だ。

 

彼岸前なので、墓の草刈りをした。

天気予報では、今夜からは台風の暴風圏に入る。

午前中から時折、強めのか風が吹いていた。

何度も帽子を飛ばされそうになる。

蒸し暑さはあったが、曇り空と風のおかげで体への負担が少ない。

 

墓の後に、竹藪の草も刈った。

日陰が多い場所なので、まだ茗荷が花を咲かせている。

切り倒したまま放置していた竹の周辺にも茗荷が茂っていた。

足元を見ると、大きな花が見える。

奥に手を伸ばすと、ずっしりとした手応え。

実も驚くほど大きい。

初めて付く実だのだろうと母が言う。

あちこちに水引草の赤い花が揺れている。

スマホではピントが合わせにくい。

マニュアルフォーカスを使ってみたが、画面でピントの細部まで確認するのはこれまた難しい。

適当に撮ってみると、ピントは今一つだが背景のボケが丸くてびっくりした。

プランターに植えてるために、3本ほど抜いて帰った。

 

昼食のとき、茄子の揚げ焼きを頬張る私を見て母が語る。

「お父さんは田舎の爺さんなのに、茄子が嫌いなんよね」

「トマトもピーマンも、ズッキーニもゴーヤもほとんど箸をつけない」

あまり意識したことはなかったが、父は野菜が好きではなかった。

焼酎をんでばかりいた。

今は病院食だから、好き嫌いも言えない。

ちゃんと食べているのか気になる。

私は母に似たのだろう。

食べ物は何でもおいしいと感じる。

父がいないのは寂しいが、母と食材や料理の味について話しながら食べるのは楽しい。

朝も昼もおやつも、いつだって手が止まらない。

また食べ過ぎた。

 

午後はイノシシ避けのトタン板を求めてホームセンターへ。

板はあったが、板を固定する鉄筋が足りない。

取り寄せ注文をして実家に戻る。

 

風がさらに強くなってきた。

雨も混じる。

一息入れて実家を出た。

母が、今日採れた茗荷と、まとめ買いしていた梨を半分持たせてくれた。

茗荷は刻んでご飯に混ぜた。

梨は明日食べよう。

水引草は忘れて帰った。

来週もまだ咲いているだろうか。

 

 

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代表 堀行丈治
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By ほりゆき

ぶるぼん企画室代表の堀行丈治(ほりゆきたけはる)です。取材、執筆、撮影、編集を生業としています。