郷里で「えべっさん」の祭りがあった。
昔からある祭りなのだが、子供の頃の記憶に残っていない。
事代主神を祀る伊智波神社と、火の迦具土神を祀る愛宕神社。
バス通りの裏手に二つの神社が並んでいる。
11月は氏神様の例大祭があり、そちらのほうが大きかったこともあり
おそらく何度も遊びに行ってはいると思うが、神社の場所すらうろ覚えのような状態だった。
だが4年後にはお世話役の当番が回ってくるということで、今年は当日だけだが手伝いから参加した。
小さな集落で、ご近所さんの家はほとんど知っているが、顔を合わせる人が誰なのかはほとん分からない。
祭りの準備は、名前を知らなくても自然と協力し合えるから楽しい。
その間に、大体の見当がつく人もいれば、聞かなければ分からない人もいる。
年配の人は皆、父の話をしてくれる。
よく喋って、よく飲むという人物評しか聞いたことがない。
元々声が大きいし、酔うとさらにうるさかった。
生前は毎年秋になると「えべっさん」と口にしていた。
祭りで飲むのが好きなのだ。
ただの酒好きなのだと思っていた。
今日、父をよく知る人から、二つの神社が元々は別の場所にあったと教わった。
一つは私の実家の左隣で、もう一つは右隣。
道路拡幅のために移転したが、実家の両隣にえべっさんの神社があったのだという。
父がえべっさん好きだったのは、こういう歴史があったことも関係しているのかもしれない。
この話は、母も知らなかった。
父は生きている間に、大事なことはほとんど語ってくれなかったように思う。
解けない謎がまだまだありそうだ。
その謎と向き合うのが、これからの人生の宿題なのかなと思うことがある。