芥川賞受賞作の「ハンチバック」(市川沙央)を読んだ。
障害者が逃れられない現実と、主人公が持つ心の闇が生々しく描かれていて、
少々しつこい感じはするが、独特の表現力を感じた。
だが、読み終えて何かを感じ取ったか、得られたのかといえば、
私の答えはNOだ。
刺激的なことばが、現実と空想の間の往来をイメージさせるが、
普遍性が薄い。普遍性に手がかかりそうな場面があっても、すぐに離れてしまう。
創作とはいえ、筆者の経験に裏付けられた、極めてパーソナルな世界のように思える。
つまり、自分ごとに置き換えられない。共感できないのだ。
私は、小説には何らかのカタルシスを求めてしまう。
カタルシスがない場合でも、どこかで共感できる部分はほしい。
この作品にはそれがない。
読者は傍観者でしかないように思う。
話題の本ということで読んでみたが、残念な読後感だった。