文章講座のあと、クレドビル3階のテラスでパンを食べていると、一羽のスズメがやって来た。
最初は柵の上に止まっていたが、パンくずがこぼれると地面に降り立った。
食べかけのパンをちぎって落とすと、私の足元まで駆け寄って来て、パンのかけらをくわえて走り去った。
しかしバゲット生地はスズメにとっても硬いようで、かけらを振り回してばかりでなかなか食べられない。
クロワッサンを千切って投げると、バゲットを放り出して駆け寄って来た。
こんどは簡単に刻めるようで、床上のクロワッサンくずを夢中になって貪っていた。
テーブルの下や靴の先まで、パンくずが落ちているばしょはくまなく歩き回る。
人慣れしているのだろうが、ここまで近寄るスズメは珍しい。
結局、やってきたスズメはこの一羽だけだった。
彼らにとっては自分の何百、いや何千倍も大きい人間に近づくのは危険極まりないことだが
その危険を冒したものだけが、ごちそうにありつける。
リスクの先には、獲物を独占できる恩恵がある。
あと一歩、いや数歩ぐらい前に出てもいいと思った。