実家に帰ると、キッチンの米びつが空っぽだった。
もう使い切ってしまったのかと思い、精米に行こうとしたところ
「虫が涌いたので米びつから出した」
と母が言う。
庇の下にザルが置かれ、米が広げられていた。
黒や茶色の物体がたくさん混じっているのが、遠目にもわかる。
手のひらにひと掬いするだけで、羽虫や幼虫が十数匹見つかる。
虫に食べられて変形している米や、蛹の殻のように固まっている米も無数にある。
もう食べるのは諦めて、捨ててしまったほうがいいと思った。
しかし母は、米の塊の部分や虫を除ければ食べられると譲らない。
それはたしかにそうかもしれないけど…
おいしいとかおいしくない以前に、
「食べられるものは捨てない」
ということなのだ。
夕飯どきに、母が茗荷を刻んでくれた。
冷蔵庫にあった辛子酢味噌がよく合う。
酢味噌の裏を見ると、賞味期限が去年の1月だった。
もしかしたら、今日の米もおいしく食べられるかもしれない。